プレトーク

COLUMBA3作目にして、はじめて既存の物語をモチーフにした「シンデレラ」。
本番をまもなくに控えた稽古場より、本作に挑む心境やねらいについて、
トークゲストでもあるブックピックオーケストラ代表の川上洋平さんに迫って頂きました。

1 「書くメソッド」

石神 いただきまーす
川上 でも本当に、感心しました
石神 いや、そんな
川上 どうやって書いているのかなぁと思って。何回か見せてもらっているんですが、石神さんの作品って
「わかりやすさ」というのに気をつけているじゃないですか。わかりやすくなりすぎないように、とか。それでいつも、「やられたなぁ」という感じになるんですよね。うまい具合に気になる異物を渡されるような。
今回、文章で読ませてもらって、意図的に何かやっているな、考えているな、っていうのはあって、書くときにメソッドがあるんじゃないのかな、と思ったんですよ。 読む時になってそのメソッドを解き明かすと、話がわかりやすく仕上がる、答えが見える、みたいな。そういうわかりそうでわからないタイプの難解さですよね。
石神 時々「頭おかしい」って言われるんですよ。それは、そういうメソッドみたいなものを持って見ていれば、理解できるのに、読み解けるのに、メソッド
を外してしまったままだと「頭がおかしく」見える、っていうことなのかな、って思った。
川上 この間久々にコロンバを観た時に、わからないなりにも、僕はしっくりきたんですよ。初めて見たときの印象は、「ぶっ飛んでるな」って感じがしたんですけど、僕にとってみると、わからなさの中での扱い方、みたいなものが、前に比べて変わってきたんです。今回の稽古を見ただけでもさらに変わっていたので次回作(シンデレラ)、確実にいいと思いますよ。
石神 ありがとうございます。
川上 なんか一番はじめに漠然と僕が思ったのは、飛び方がデヴィッド・リンチみたいだな、って。
石神 似ている、って言われたことはありますね。
川上 すごい前にそれは思ったんですけど。でも今は、リンチじゃなく独自の方向に行っていますね。それはいい方向なんですけれど。
2 「わからない」昔話

石神 「わからなさ」に関して、ちょっと思い出したんですけど…
昔話とかって、本当は訳がわからないことだらけなのに、慣れすぎていて、「わからない」ことに気付かない、ってことがあるじゃないですか。「わかる」ことを求めすぎているっていうかね。
たとえばね、浦島太郎の最後で、玉手箱を開けたら白い煙が出てきて、お爺さんになった、っていうことに私たちは慣れすぎているんですけど、よく考えたらひ とつも理屈にあっていないんですよね。玉手箱がまず、ありますよね。まあそれは、貰ったものだからいいとしても、玉手箱から煙…煙は、箱の中にはおさま らないし、どっからどう出てきたんだ、ということがまずあったりとかするんですけど、煙が出てきておじいさんになる、っていうのがまず理屈にあいませんよ ね。魔法、とかならまだいいんですけど…。魔法っていうのが、そもそもそういう理屈にあわないものを説明するために生み出されたわけで。
川上 煙の入った玉手箱が、海の中にあって、水が入り込まない時点でおかしいですよね(笑)
石神 そうそう。そもそも、亀の背中に乗って海の中に沈む、っていうことがおかしいじゃない。だから、リアルな話として、多分実際にもそうだと思うんだけど、浦島太郎って死んだ人のお話だと思う。竜宮城っていう、他界に行ってしまった人の話だと思う。
みんな今はそういう話をされても、「へー」ってなってしまうし、子供はきっと受け入れることができると思うけど、本当に初めて、大人がその話を聞いたとし たら、全く意味がわからないと思う。物語の最初から全然理屈にあっていないし、浦島太郎はいいことをしたのに最後にお爺さんになってしまうし。
でも、それに何か、言葉では説明できない真実や世界のあり方が込められていて、お話としてしか伝えられないから、お話として残ったと思うんだよね。
川上 うーん、なるほど。
石神 「大事なのはこれです」って一言で言い切れない、お話を読む、という時間のかかるプロセスを通していかないと、伝えられないものなんだと思う。最後に結論だけを抜き出していっても、全然意味のわからないようなものを伝えるために、物語ってあると思うんだよね。 お芝居もやっぱりそういうものだと思うんですよ。
川上 だから僕も、お芝居ってトークがしにくいものだと思うんですよ。
お芝居を見て、それについて語るっていうのは、あんまり意味がないよな、って思うんですよ。
石神 なるほどね。
3 「選ばれる」こと、「選ばれない」こと、について

川上 さっきもちょっと言った、「選ばれる/選ばれない」の話なんですけど…
最近は、割と複雑なストーリーっていうのが世に出始めていますよね。でも、僕たちが子供の頃って、勧善懲悪の、時代劇風のストーリーが多かったじゃないで すか。でも、善があって、悪を懲らしめる、っていうような枠組みよりも、「選ばれる/選ばれない」っていう枠組みの方が、意味としては近いんじゃないのかなって思うんですよ。
ほとんどの話が「選ばれた人」に焦点を当てた話だし、自分を重ねるのは、劇の中の「選ばれた人」なんですけど、でもそれってあまりリアリティがないと思っていて。現実世界では、「選ばれない」経験の方が多いわけで。そっちに焦点を当てた方が、面白いんじゃないかなと思うんです。
物語の中では「ちょっと嫌な奴」っていうキャラクターで、好きな人とかも主人公に取られちゃうような。ストーリーの体としてはハッピーエンドになるんです けど、「フラれたあいつは、すごいきついだろうな」みたいなことを思っていて、「選ばれない」キャラクターに焦点を当てたらどうかなって。
「選ばれる」っていうのはすでに枠組みがあるわけで、シンデレラストーリーとかそうですけど、主人公は、すでに作られた「シンデレラ」っていうお話の枠にハマ るっていうことですよね。それって甘えだし、シンデレラっていう前例にハマるよりも、前例もなく語られていない、選ばれなかったキャラクターの方が、「これからどうなるんだろう」って思ってしまう。 でも今回は、もう一つひっくり返して「選ばれる」ことの大変さも描かれていますよね。
石神 うん、今回は、「選ばれる」ことの大変さも描きながら、「選ばれた」者がいなくなった時に、「選ばれなかった」者が、『なんであの子が選ばれたんだろう』と考えてるお話ですかね。
そこに理由をつけていくことで、物語が生まれていく。残された人がいろんな物語を作って、「選ばれた」人がいなくなった事実に納得しようとする、「シンデレラ」ってそういうお話じゃないかな、って思うんです。「選ばれた」人の話なんだけど、残された人が作ったんじゃないかな。
川上 なるほど。「選ばれた」人の話っていうのは、すごい資本主義的だな、っていう気がしていて。
アメリカって、すごい自伝が多くて、売れているんですよ。自伝といえば大体偉人の話なんですけど。読者はきっと、偉人が「何故そうなれたのか」を知りたいし、できれば自分もそうなりたい、向上したいっていうところがあるんだろうなぁと。
「選ばれる」っていう言葉自体が、コンテストとか、競い合いを前提としているものだと思うんです。考え方の枠組みが、そういう捉え方をしているなぁ、と。人間の根源的な部分でそういう枠組みがあるのかなぁと思うんですよ。
ただ、今は異例な時代で、競い合いに疲れた、っていう風潮があるじゃないですか。「選ばれた人」の話がないと、「選ばれなかった人」の話もなくなってしまうから、今のような時代には、物語は生まれづらいのかなって思うんですよ。 ただ、今回の作品では、「選ばれた」人が、「選ばれなかった」人の痛みを分かっている、っていう部分に気をつけていて、そこで三姉妹の関係性がぶれてしまうところなんかが、あぁ面白いなぁって。
石神 そうですね、「選ばれた」っていう受け身の立場になっていた主人公が、結局、もう一度運命を自分の手でつかみ直すというか、能動的な立場に立つというか、そういう所に行くお話なんですね。
「選ばれる」「選ばれない」じゃない、それぞれの立場を持つ、みたいな今言ったような現代の価値観に、繋がっているのかもしれないですよね。まあ、私たちの感覚に近いところとして、「選ばれたり、選ばれなかったりなんていやだ!」っていうのがあるんですけど。
でも「いやだ」っていうので、放棄することもできるけれど、起きてしまったことは起きてしまったことなわけで、結果としてシンデレラは選ばれてしまった。 選ばれる前に戻るわけにはいかない。だけど、「選ばれた」のではなくて、私が自分の世界のドライバーになる んだ!っていう感覚が、共有されているのかもしれませんよね。
川上 最近思うのは、自分ももちろんそうなんですけど、「頼まれたからやります」ってなりがちじゃないですか。だから仕事でも頼んだ人に文句を言う。でも、それってすごく甘えているなぁ、って思うところは多々あるんです。他人の決定に身を委ねて、それで文句を言うんだけど、ただ決定をする側には自分は回りたくないんです よね。決定側に回る方がいいことも結構あるんですけど、なかなか一歩を踏み越えられる人が少ない。でも責任を取っちゃった方が、結局楽なんですよ。
4 「わからなさ」その2

石神 また「わからなさ」の話に戻っちゃうんですけど、私はわかることを「はい」って伝えるんじゃなくて、最後にお客さんに語りかけて、尋ねるような形で伝えるのがいいな、って思うんですよ。観終わった帰りの道々で、恋人や家族や友人に「こういうのがあったんだけど、どう思う?」みたいな話ができるような。
川上 すごくわかります。最終的に「お客さんに考えてもらう」、っていうわかりにくさを、プロセスを通して形にするのって、すごく難しいんですよ。石神さんはそこの塩梅がすごくうまい。
石神 ありがとうございます。
川上 「世界を広げていく」っていう時に、どうしてもわかりやすさや、メソッド的な方向に行きがちになってしまう。でもそれだと、どんどん失われていくものがあって。それを失わずに、どうしたら他の人にも伝えていくことができるか、っていうことは、今も考えているし、課題ですね。
川上洋平 
ブックピックオーケストラ代表

2003年「ブックピックオーケストラ」結成以来、全ての企画運営に携わり、ウェブからデザイン、ライティング、仕入れまでを担当。2006年末から代表。ブックピックオーケストラは、本のある生活をふやすために、新たな本のあり方を模索し、人と本が出会う素敵な偶然を演出するユニット。2008年10月「ラ・マレア 横浜」にて書店出張、オリジナル商品「文庫本葉書」の販売、栃木県益子STARNETでの古書販売など、活動を展開中。http://www.bookpickorchestra.com/